VOICE vol.7 地域生活支援中心の精神科医療サービスを提供する/社会医療法人智徳会 未来の風 せいわ病院

VOICE vol.7 地域生活支援中心の精神科医療サービスを提供する/社会医療法人智徳会  未来の風 せいわ病院

当院の心理社会療法について

地域に根ざした精神科医療のイーハトーヴ~理想郷を目指して

私たち支援者が、患者さんのパーソナルリカバリーを応援するうえで、SSTはとても有用な心理社会療法の1つです。私自身も中級者講習まで参加して、院内のSST普及に努めてきました。地域で暮らす全ての人たちが病気や障がいの有無にかかわらず「自分らしく」生きていけるために、「精神医療の専門家集団である私たちに何ができるのか」ということを常に自問自答しながら、私たちにできる最高の医療サービスを提供していきたいと考えています。

FACEDUO導入のきっかけ

SSTスキルの定着を目指して

これまで多くのスタッフがSSTの研修を受講してきましたが、実際の病棟・デイケアにおけるSSTの実施・運営の担い手はその一部に限定されてしまい、必要とする患者さんのすべてに提供できていませんでした。その理由の一つとして、SSTが経験値の高いスタッフのみが実施する職人芸、といったイメージが根強いことがあると考えています。本来、SSTとは「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ」といった風に、経験の有無にかかわらず、共に体験し、楽しみながら習得していくものだと考えます。そこで、今回スタッフのSSTのスキル向上と必要な患者への実施の拡大に向けて、社会生活場面を教材にVRで練習できる精神科専門医監修のSST支援プログラムであるFACEDUOを導入しました。

活用事例1 : デイケア自閉スペクトラム症の患者さん

– 人混み・人の声が怖い等の症状あり、就労経験があるが、怒りの感情の出し方が分からず、退職した経緯がある。
– 面談でうまく相手と話せるようになりたいという希望を持っている。

VR体験前オリエンテーション

アセスメントシートで確認した内容
– 長期目標:面談の場でしゃべれる様になる。
– 短期目標:人の名前を覚える、場の空気・デイケア-に慣れる。
– 現在の対人面の活動:デイケアのみ。
– 趣味はオンラインゲームで、ゲーム上のコミュニケーションは問題ないが、友人が欲しい等の希望は聞かれなかった。

VR体験+対面ロールプレイ

VRロールプレイ
– VR体験後、本人から「スタッフに話しかけて、趣味の話をしたい」という希望を確認した。
– VRのロールプレイは、声の大きさはちょうど良く、スムーズに実施できた

体験コンテンツ「会話を始める」
新任の看護師さんに話してみたいと思ったものの、うまく言葉が出てこずに話す機会を逸してしまった場面

対面ロールプレイ
1回目:初対面のスタッフに唐突な話題で話しかけたため、初対面の人との話題選びについて振り返りを行った。
2回目:作業中のスタッフに対し、横からいきなり自己紹介を始めたため、話題選びは良いが、挨拶や前置きの言葉が必要、と振り返りを行った。
3回目:「すみません」と前置きの言葉を使って、天気や季節の話題で会話を始めることができた。

実践練習

練習計画シートに記載した「話す話題を決める」「“あの”ではなく、相手の名前で呼ぶ」に沿って、声のかけ方を話し合った。「すいません、お話したいんですけど、いいですか」と声をかけ、お互い自己紹介をした上で、あらかじめ決めていたゲームの話題を出したところ、スタッフから趣味を聞くことができた。終了後、「やって良かったです」と感想を述べた。

ポイント
VR体験が現実とリンクしやすいことで、学んだスキルが実践に活かされやすい

活用事例2 : 病棟/再入院を繰り返す統合失調症の患者さん

– 治療の自己中断、措置入院の経緯がある。
– 対人トラブルが多く入退院を繰り返しており、病的体験は否定。アパート入居を目指していることを動機付けに利用し、社会性向上を目的にFACEDUOを導入した。

VR体験1回目:課題事例に対する個別SST

– スマートフォンを回収されたことに、強い不満を漏らし、スタッフに怒っていたことを話題に挙げ、練習を提案した。
– スマートフォンを返してもらうためのスタッフへ「お願いする」工夫を考え、バリエーション豊富にロールプレイができた。
– 「イライラしすぎて言い過ぎた」と内省があり、帰室後、「さっきは強い口調で話してすみませんでした」とスタッフへ謝罪の場面があった。

体験コンテンツ「お願いをする」
デイケアのプログラムでスタッフに作業で必要な糊を貸してほしいとお願いをする場面

ポイント
発生したコミュニケーションの課題事例に対して、VR体験を通じて解決するためのトレーニングを実施

VR体験2回目

VR体験「状況体験」後の振り返り
似た経験があるか質問すると、「最近だと“アパートの審査落ちるぞ”とか聞こえますね」と、普段の関わりでは決して言わなかった幻聴体験について話し出した。

VR体験「工夫発見」後の振り返り
症状悪化を相談することについては、「話すとスッキリするなって思います」と、理解を示したため、症状悪化の際は、病院ではスタッフに相談しましょうと伝えた。

VR体験「実践練習」後の振り返り
– 「制限時間内に会話するのがゲームみたいで面白くなってきた」とコメント。
– デイケアに移行し、FACEDUOによるSSTを継続している。

体験コンテンツ「症状の悪化に気づき相談する」
病気の症状が悪化したことに 気づいたものの、相談することができなかった場面

ポイント
楽しみながらトレーニングが実施でき、継続に繋がる

現場の声

VR体験後に、自分の体験を外在化するなど、患者・医療者双方に大きな気づきを得られました。いずれは認知のゆがみが是正され、退院後の生活が軌道に乗ることを期待しています。

個別・集団の両方で活用できる

コロナ禍では、SSTを含む集団精神療法が実施できず、個別支援が中心でした。FACEDUOは、個別でも一定のレベルの支援が可能であり、教育ツールがそろっているので、スタッフ教育としても活用しています。個別SSTにより、スタッフはプレゼンスキルを気にすることなく、気軽に利用者をSSTに誘え、アセスメントも同じ時間にできるなど、効率よく実施できています。

今後の活用計画

救急・急性期病棟や訪問看護場面での活用を計画しています。FACEDUOプロジェクトリーダーを務めている社会復帰支援室長から、看護部師長会議やデイケア広報誌で、FACEDUOの取り組み状況を発信したり、プロジェクトメンバーが機材を持って使い方レクチャーを各部署で実施して広報活動をしています。こうした活動の結果、FACEDUOを実施している現場に見学に来るスタッフが増えてきました。長年にわたって病的な世界に没入し、薬物療法での治療に限界を覚えるほどの患者であっても、心理社会的療法やスタッフとの幸運な出会いがきっかけとなり、現実の世界とつながりを取り戻せることがあります。1人でも多くの患者、スタッフがFACEDUOに触れ、心理社会的療法の魅力に気づくことで、私たちが目指すリカバリーの裾野を広げていきたいです。

理事長 智田文徳 先生

FACEDUO導入により、入院からデイケアまでシームレスなプログラムの実施が可能

入院生活技能訓練

– 退院・自立に向けて取り組む意欲のある患者さん
– 退院後に必要なスキル(会話、服薬、症状など)を習得するコンテンツ

デイケア(SSTプログラム)

– コミュニケーションが上手くなりたいという意欲のある患者さん
– 対人コミュケーションスキルを習得するコンテンツ