特例子会社の担当者・就労移行支援事業所の支援者の方を対象とした SST に関するセミナー
汐留社会保険社労務士 新井将司氏
ソーシャルスクエア 代表理事 CEO 北山剛氏
ソーシャルスクエア 理事 今泉 俊明氏
・利用者の方のコミュニケーション体験の機会提供
・スタッフの支援力の向上
・事業所の強みの隣差別化、検討している方の利用につながる
・医療機関との連携
好事例から考える障害者就労の進め方
精神障害者の職場定着の難しさ
最近の障害者雇用の状況として、障害者雇用促進法の法定雇用率(障害者の雇用義務)が令和6年4月1日より2.5%に引き上げられたが、それにより今後、精神障害者や知的障害のある方を雇用するケースが多くなると想定されます。つまり、見た目だけでは「どのような配慮が必要か」分かりにくい障害者の雇用が増え、個々の障害者の特性を理解し、職場で受け入れる必要があります。障害者雇用の難しさとして、職場定着率の問題が挙げられます。厚生労働省「雇用動向調査」によれば、全体(一般労働者)の平均離職率11.9%に比して、障害者の離職率の高さは課題となっています。
なかでも精神障害者の1年間の職場定着率は精神障害の方は49.3%とおよそ半数が離職していることから、課題が大きいと考えます。課題の解決策として、障害者就労推進事例(支援機関との連携や小規模拠点での事例)は参考となる。いくつかの事例を通して、精神障害者や知的障害のある方の就労支援のポイントとして、「採用活動」と「職場定着」の観点でまとめました。
精神障害・知的障害のある方の就労支援のポイント
採用活動のポイントとして1つは、自社(自社で行う業務)へのマッチングがとても重要であること、特に知的障害者、精神障害者を雇用する場合は、支援機関との連携も重要であり、うまくいく事例として、職場実習を通して自社の業務や職場とのマッチング(双方)を確認したうえで採用を決定することが多いです。2つ目は「出来ないこと/苦手なこと」ではなく、「得意なこと」に着目する必要があります。
次に、「職場定着」のポイントとして、基本は上長が毎日の(朝の)出勤時の表情や勤怠の乱れに気づくことであり、そのほか、支援機関との連携や本人の変化に応じた柔軟な対応(個別対応)が挙げられます。また、支援機関と連携することで、職場では声に出せなかった不満や不安があることや、生活面でのストレス等がわかることもあります。
職場定着においては、対人コミュニケーションの問題もあります。対人面のトラブルが発生することは多々あり、当汐留社労士法人にも相談があります。コミュニケーションスキルをトレーニングしておくことも重要であり、ソーシャルスキルトレーニング(SST)は有用であると考えます。
アンケートから見た精神障害者雇用に関するニーズ
今回のセミナーに参加された特例子会社・障害者採用担当者の方を対象としたアンケートを事前に実施し、その結果をまとめました(アンケート:WEBを用いて2024年4月セミナー前に実施)。なお、アンケート回答のあった8社すべてが現在精神障害者を雇用しているという回答でした。精神障害者の採用で重視している項目についての質問では、「コミュニケーションや意思疎通が円滑にできる」との回答が最も多く、「症状の安定」、「障害受容ができている」、「外部支援機関と繋がりがある」、の回答が次に続きました。重視している点として、「コミュニケーションや意思疎通が円滑にできる」、「対人スキルに関するトレーニングが実施されている」の回答から、職場での対人コミュニケーションスキルに対するニーズの高さが伺えました。
精神障害者の雇用で発生している問題についての質問では、「上司・同僚との人間関係のトラブル」の回答が最も多く、「症状や体調が安定しない・悪化した」の回答が次に多いという結果でした。この質問でも、「上司・同僚との人間関係のトラブル」、「対人コミュニケーションの課題によるミスが多い」の回答から、対人コミュニケーションスキルに起因する問題が多いことが分かりました。
精神障害者の採用ルートに関する質問に対しては、現状の採用ルートと今後強化したいルートともに、「就労支援事業所」が最も多い回答でした。そのほか、現状では「民間の人材派遣会社」を通した採用が2番目に多い結果でしたが、今後強化したいルートとして、「障害者を対象とした合同説明会」「自社のWEBサイト」からの採用を挙げる人が多くなっていました。
また、就労支援事業所の参加者に対して事後に実施したアンケート(アンケート:WEBを用いて2024年4月セミナー後に実施)をまとめました。
対人コミュニケーショントレーニングの重要性については、「とても重要と思う」と回答した参加者が8名中7名とほとんどでした。SSTなど対人コミュニケーショントレーニングについて、今後実施回数を増やしたり内容を見直したいと思いますかの問いにも、8名中7名が「ややそう思う」と回答していました。今後実施回数を増やしたり、見直したいと考えた理由については、社会性を育むことが働く準備として必要だと考えている、などさまざまな回答がありました。精神障害者の雇用で発生している問題事例などについてセミナーを通して雇用者の意見を聞くことで、就労支援事業所の参加者の対人コミュニケーショントレーニングの重要度に変化が生じた可能性が考えられました。
FACEDUO導入事業所による事例紹介
地域に根ざした事業所を目指して
ソーシャルスクエアは、地域に根ざし社会・ヒトとの繋がりを創っていく、自分たちの想いや活動が20年後の社会観・地域文化を創っていくを理念として福島県いわき市から始まり、現在は秋田県1拠点、福島県4拠点、兵庫県1拠点、熊本県3拠点と拡がっています。年齢・性別・国籍・障害の有無を意識しない社会を目指した活動として、「ごちゃまぜ」と題した町づくり企画を地域のなかで運営しています。また、ソーシャルスクエアは「社会と現在の自分を結ぶための広場を創造することで、”はたらくを諦めない”生きにくさを抱える方々の心に栄養を、その先の、活力ある人生をデザインする」というコンセプトの元、自立訓練と就労移行支援の2つの福祉サービスを提供しています。
ソーシャルスクエアでは、就労支援の前の準備段階として2年間自立訓練(生活訓練)からはじめ、そのあと就労移行支援に繋げるようにしています。自立訓練では、「生活力を⾝につける・社会とつながる」を目標に、自立した生活を支援します。様々な活動を自分のペースで選択する、ストレスコントロールなどを行い、ゆっくり自分らしく居られる場所をつくります。就労移行支援では、「働く・働き続ける」を目標に、就労のサポートをします。ここでは、自分を知る(自己分析)、コミュニケーション方法を学び、ビジネススキルを⾝につけます。コミュニケーション方法においてはソーシャルスキルトレーニングを行い、ビジネススキルについては、ビジネススキル研修のみならず、短期間で実際に企業内で実習を行い、業務内容や職場環境のマッチングを確認します。
就労手前の支援の増加に対する対応
2017年6月以降の自立訓練利用者96名の調査(いわき市内3事業所利用者)から見た利用者の傾向として、20代-30代の利用が86%であり、特別支援学校卒の利用者はほとんどおらず、一般高校、大学・専門学校の学歴の人が83%を占めています。
疾患では、精神障害が45%、発達障害が22%、発達障害で2次障害ありが20%、上記を合わせると87%とほぼ精神・発達障害の人の利用が多いという結果でした。また、学生時代、学校卒業後に引きこもりの経験がある人は33%と3人に1人は引きこもりの経験があることがわかりました。これら利用者は不登校との関連があると考えています。
社会に出るためには“コミュニケーション”の課題が大きい
前述のような利用者においては、「コミュニケーションが取れない」、「極度の緊張・不安」、「人間関係が不安」、「なかなか外に出れない」、「体調が安定しない」といった就労以前の課題が大きく、なかでもコミュニケーションの課題が大きいと考えます。ソーシャルスクエアでは、対人コミュニケーションの課題に対して、SSTを導入していましたが、現実に近い臨場感で体験でき、学んだスキルが実践しやすい特徴から、VRでSSTをサポートするFACEDUOの導入に至りました。実際に体験した利用者にアンケート(質問紙を用いて2024年3月)を実施しました。VR映像のリアルさ、没入感があり集中して参加できた、などポジティブな意見が多い結果でした。FACEDUOを就労支援事業所で活用することのメリットとして、以下の4点があげられます。今後、利用を積み重ね、就労移行支援での事例を発信していきたいと思います。